ビットコインは本当にインフレに強い?ー期待インフレと30日先リターンを検証

Published on 8月 25, 2026

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ビットコインは、法定通貨の価値低下に備える「インフレヘッジ」として語られることがあります。では、実際に市場のインフレ期待が高まるほど、その後のビットコイン価格も強かったのでしょうか。今回は10年BEI(期待インフレ率)とBTC/USDの30日先リターンの関係を、相関、10分位別リターン、SHAPから検証します。

ビットコインはなぜ「インフレに強い」と言われるのか

ビットコインがインフレヘッジとして語られる理由の一つは、発行上限が2,100万BTCに定められていることです。

中央銀行が供給量を調整できる法定通貨とは異なり、ビットコインはあらかじめ決められたルールに沿って供給されます。そのため、通貨の価値がインフレによって薄まる局面では、希少性のあるビットコインが価値の保存先になるという考え方があります。

ただし、ここで一つ分けて考える必要があります。

「インフレに強そう」という経済的な説明と、実際にインフレ期待が高い局面でビットコインのリターンが高かったかは別の問題です。

そこで今回は、過去のデータからその関係を確認します。

今回見るのはCPIではなく「期待インフレ」

今回使うのは、米国の10-Year Breakeven Inflation Rate(10年BEI)です。

BEIは、米国の名目国債利回りと物価連動国債の実質利回りの差から計算され、市場が今後どの程度のインフレを織り込んでいるかを見る代表的な指標です。

つまり、今回調べるのは「発表済みのCPIが高かったか」ではありません。

市場参加者がどの程度のインフレを織り込んでいたときに、その後のBTC/USDがどう動いていたかを見ています。

分析対象はBTC/USD、期間は30日先リターンです。ビットコインは株式と異なり土日も含めて24時間365日取引されるため、30日先はおおむね1か月後に相当します。

期待インフレとBTCの30日先リターンにはマイナスの相関があった

まず、10年BEIとその後30日のBTC/USDリターンを単純な相関で確認しました。

結果は、約-0.23のマイナス相関でした。

つまり過去のデータでは、期待インフレが高い局面ほど、その後30日のビットコインのリターンが低くなる傾向が見られます。

これは、「インフレ期待が高まればビットコインには追い風になる」という単純なイメージとは少し違う結果です。

図1:10年BEIとBTC/USDの30日先リターンの相関。単純相関ではマイナスの関係が確認された。

ただし、相関係数だけでは「期待インフレがどの水準にあるときに関係が変わるのか」までは分かりません。

そこで、次に10年BEIの水準を10段階に分けて確認します。

期待インフレが高いほど、一直線にBTCが弱くなるわけではない

10年BEIを低い方から10分位に分け、それぞれの局面におけるその後30日のBTC/USD平均リターンを比較しました。

ここで興味深い結果が出ています。

期待インフレが1.74〜1.91%だったQ3では、その後30日の平均リターンが+19.85%でした。一方で、期待インフレが高い側に移ると、Q9では-2.65%、最も高いQ10では-12.85%まで低下しています。

つまり、単純に

「期待インフレが上がるほど、少しずつビットコインが弱くなる」

という関係でもありません。

中程度の期待インフレでは比較的高いリターンが観測されている一方、期待インフレがかなり高い領域では、その後のリターンが急に悪化しています。

図2:10年BEIを10分位に分けたときのBTC/USDの30日先平均リターン。期待インフレが最も高いQ9〜Q10でリターンが悪化している。

これは、先ほどの「相関-0.23」の中身が、単純な直線ではないことを示しています。

2.4〜2.5%付近から関係が大きく変わっている

この非線形な関係は、SHAPでも確認できます。

SHAPは、モデルの中で各ファクターの値が予測値をどちらの方向へ動かしていたかを見るための指標です。

10年BEIを見ると、2%台前半まではプラス方向のSHAPも多く見られますが、2.4〜2.5%付近からマイナス方向の寄与が目立つようになります。

10分位分析でQ9・Q10のリターンが悪化した水準とも、おおむね重なっています。

図3:10年BEIとSHAPの関係。期待インフレが2.4〜2.5%付近を超えると、モデル内でマイナス方向の寄与が強まる傾向が見られる。

もちろん、SHAPは「期待インフレの上昇がビットコインを下落させた」という因果関係を証明するものではありません。

ただ、相関、10分位別リターン、SHAPの3つを合わせると、期待インフレとビットコインの関係は単純な比例関係ではなく、高い領域で様子が変わっていたことは確認できます。

なぜ期待インフレが高すぎるとビットコインの逆風になり得るのか

ここからは、データから直接証明された事実ではなく、結果を説明するための仮説です。

期待インフレが高まると、FRBはインフレを抑えるために金利を高く維持する必要が出てきます。利下げへの期待も後退しやすくなります。

すると、

期待インフレの上昇
→ 金利を下げにくくなる
→ 金融環境が緩和しにくくなる
→ リスク資産への資金流入が弱くなる

という経路が考えられます。

ビットコインは供給量という意味では法定通貨と大きく異なりますが、市場価格は金融環境や流動性から無関係ではありません。

そのため、「インフレが高い=ビットコインに追い風」ではなく、インフレに対して金融政策がどう反応するかまで含めて考える必要があるのかもしれません。

現在の期待インフレはどの位置にあるのか

今回の分析時点で、10年BEIは約2.32%です。

10分位ではQ7に位置しています。過去に同じQ7に分類された局面では、BTC/USDのその後30日の平均リターンは+7.92%でした。

ただし、これは

「今後30日でビットコインが7.92%上昇する」という予測ではありません。

あくまで、過去に同程度の期待インフレ水準だった観測値をまとめたときの平均です。

市場には金利、ドル、株式市場、流動性、暗号資産固有の需給など、同時に多くの要因が存在します。BEI一つだけで将来のBTC価格を決めることはできません。

まとめ|ビットコインを「インフレヘッジ」だけで説明するのは難しい

ビットコインは、その供給設計からインフレヘッジとして語られることがあります。

しかし今回、10年BEIとBTC/USDの30日先リターンを調べると、期待インフレが高いほどビットコインが強くなるという関係は確認できませんでした。

単純相関はマイナスで、10分位分析では期待インフレが特に高いQ9・Q10で、その後のリターンが悪化しています。SHAPでも、2.4〜2.5%付近から関係が変化する様子が見られました。

一方で、中程度の期待インフレでは高いリターンが観測された局面もあります。

つまり、「インフレだからBitcoin」という一つの説明だけでは、実際の値動きは捉えきれません。

重要なのは、インフレそのものだけでなく、市場がどの程度のインフレを織り込み、それに対して金利や金融政策がどう動くのかまで含めて考えることです。

投資の仮説は、もっともらしい説明だけで終わらせず、実際のデータで確かめてみると見え方が変わることがあります。