CPIが高いと、S&P500は本当に弱くなるのか?
Published on July 26, 2026
「CPIが高いと株価には悪い」とよく言われます。では、実際のS&P500ではどうだったのでしょうか。FactDecodeを使い、CPIの12か月変化率と、その後60日間のリターンとの関係を検証しました。
CPIと60日後のリターンを検証する
「CPIが高いと、株価には悪い」
相場ではよく聞く話です。
インフレが高まると、中央銀行は利上げを行ったり、高い政策金利を長く維持したりする必要が出てきます。金利上昇は株式のバリュエーションを押し下げ、原材料費や人件費の上昇は企業利益を圧迫します。
理屈としては分かりやすい話ですが、実際のS&P500のリターンにも同じ傾向が表れているのでしょうか。今回は米国CPIの変化率を10分位に分け、それぞれの局面におけるS&P500の60日先リターンを比較しました。
本記事は過去データによる検証結果を紹介するものであり、将来の相場展開や投資成果を保証するものではありません。
今回使用したCPIファクター
今回使用したファクターは、FactDecode上で次のように表示されています。
CPIAUCNS lag pct change 12
CPIAUCNSは、米国の消費者物価指数を示すデータです。lag pct change 12は、現在の値が12回前の発表値からどれだけ変化したかを表しています。
CPIは原則として毎月発表されるため、12回前との比較は、実質的に約1年前からの変化率を見るものです。今回は、このCPI変化率を過去の値が低い順に並べ、10個のグループに分けました。
- Q1:CPI変化率が最も低かった10%
- Q2〜Q9:その中間
- Q10:CPI変化率が最も高かった10%
それぞれの局面から60日後までのS&P500のリターンを集計し、平均リターン、勝率、シャープレシオなどを比較しています。
CPIが上がるほど、一直線に株価が弱くなるわけではない
(図: CPIの12回前からの変化率を10分位に分けた、S&P500の平均60日先リターンとSHAP依存関係 )
検証条件
- 対象:S&P500
- 予測対象:60営業日先リターン
- ファクター:米国CPIの12回前発表値からの変化率
- 分類方法:10分位
- 検証期間:秘密
- フィルターなしの平均60日先リターン:+3.22%
- データカバレッジ:95.7%
最初に確認したいのは、CPIが上昇するほど、S&P500のリターンが一直線に低下しているわけではないという点です。今回の検証では、中程度のCPI上昇に該当するQ3からQ5で、比較的高い平均リターンが確認されました。
ある程度の物価上昇は、必ずしも株式市場にとって悪いものではありません。
景気が拡大し、企業の売上や利益が伸びている局面では、需要の強さとともに物価も上昇することがあります。そのため、CPIが上昇しているという事実だけでは、株価への影響を判断できません。重要なのは、CPIがどの程度の水準にあり、ほかの経済環境とどのように組み合わさっているかです。
CPIが高すぎると、パフォーマンスが明確に悪化した
一方で、CPI変化率が最も高いQ10では、結果が明確に悪化しました。
今回の検証期間において、CPIによるフィルターを設定しない場合のS&P500の平均60日先リターンは、約+3.22%でした。しかし、CPIがQ10に該当する局面では、次の結果となっています。
- 平均リターン:-1.97%
- 勝率:41.8%
- シャープレシオ:-0.29
- サンプル数:273
検証期間全体では平均してプラスだったS&P500の60日先リターンが、CPI変化率の最も高い10%の局面ではマイナスに転じています。Q3からQ5では平均リターンが5〜6%程度あったことを考えると、Q10の悪化は目立ちます。
今回の結果から読み取れるのは、
CPIは高ければ高いほど株価に悪い
という単純な関係ではありません。 むしろ、
CPIが一定の範囲を超えて「高すぎる」状態になると、株式市場への影響が変わる可能性がある
という非線形な関係です
なぜ、高すぎるCPIは株価の重石になるのか
CPIが極端に上昇すると、主に3つの経路から株価への負担が大きくなると考えられます。
金利が下がりにくくなる
インフレが高い状態では、中央銀行は金融緩和を進めにくくなります。利下げ期待が後退し、長期金利が高い状態が続けば、株式の将来利益を現在価値へ割り引く際の割引率も上昇します。特に、将来の成長期待を大きく織り込んでいるグロース株や高PER株には、強い逆風となります。
企業のコストが増える
物価上昇は企業の売上を押し上げることがあります。一方で、原材料費、人件費、輸送費、エネルギーコストなども上昇します。コスト上昇分を販売価格へ十分に転嫁できなければ、売上が増えていても利益率は低下します。
消費や設備投資が抑制される
高い物価と高い金利が同時に続くと、家計の実質的な購買力が低下します。住宅、自動車、設備投資など、借入金利の影響を受けやすい需要にも負担がかかります。CPIが高すぎる局面では、景気拡大に伴う健全な物価上昇よりも、金融引き締めやコスト増加による悪影響が強くなりやすいと考えられます。
SHAPでも、高いCPIはマイナス方向に寄与している

今回の画面では、分位別の平均リターンだけでなく、作成したモデルにおけるSHAP依存関係も確認できます。SHAPは、モデルが予測を行う際に、それぞれのファクターが予測結果をどちらの方向へ、どの程度動かしたかを可視化するための手法です。
右側のグラフを見ると、CPI変化率が低い領域から中程度の領域では、SHAP値がプラス方向に推移しています。一方で、CPI変化率が高い領域に入ると、SHAP値は明確にマイナス方向へ移動しています。
つまり、今回作成したモデルの中でも、極端に高いCPIは、S&P500の60日先リターン予測を引き下げる要因として評価されています。分位別の単純集計だけでなく、複数のファクターを含むモデルの中でも、同様の傾向が確認されたことになります。
ただし、SHAPは因果関係そのものを証明するものではありません。あくまで、今回のモデルが過去データを基に、CPIファクターをどのように評価したかを示すものです。
現在のCPIはQ9に位置している

今回の画面に表示されている最新値は、+0.0388です。約3.88%の変化率に相当し、過去の分布ではQ9に分類されています。
Q9の検証結果は次のとおりです。
- 平均リターン:+3.49%
- 勝率:77.1%
- シャープレシオ:0.67
- サンプル数:288
現在のCPI変化率は、過去と比較して高い領域にあります。ただし、今回の検証で平均リターンが明確にマイナスとなったQ10には、まだ該当していません。そのため、この分析だけを見て、
CPIが高いので、S&P500は下落する
と判断することはできません。
Q9とQ10では、過去の平均リターンに大きな差があります。単純に「CPIが高いか、低いか」だけではなく、現在値が過去の分布のどこに位置しているのかを確認することが重要です。
相場は、一つのファクターだけでは決まらない
今回の分析では、CPIだけでも一定の傾向を確認できました。しかし、実際のマーケットには無数のファクターが存在します。
例えば、次のようなものです。
- 長期金利
- 政策金利
- 原油価格
- 景気指標
- 雇用環境
- 企業利益
- バリュエーション
- 信用環境
- 為替
- 株価モメンタム
- 市場のボラティリティ
CPIが高くても、企業利益の成長が強ければ、株価が上昇することはあります。反対に、CPIが低くても、景気後退や業績悪化が進んでいれば、株価が下落することもあります。
相場は、一つの材料だけで決まるものではありません。
複数のファクターがどのような状態にあり、どのように組み合わさっているかによって、最終的な結果が変わります。単純な足し算というより、ファクター同士の組み合わせによって影響が増幅したり、打ち消されたりする掛け算に近いものです。
そのため、単一ファクターの有効性を確認するだけでなく、ほかの条件と組み合わせた時に、どのような結果になりやすいのかまで検証する必要があります。
FactDecodeで、相場の定説を検証する
FactDecodeでは、今回紹介したような分析を、ユーザー自身の仮説に基づいて実行できる仕組みを開発しています。
例えば、次のような分析が可能です。
- ファクターの値を分位ごとに分類する
- 各分位の平均リターンや勝率を比較する
- ファクターの寄与度を確認する
- SHAPによって非線形な関係を可視化する
- 複数のファクターを組み合わせて評価する
- 検証期間や予測期間を変更して再分析する
- 異なる市場や銘柄で同じ仮説を検証する
相場には、さまざまな定説があります。
CPIが高いと株価は下がる。 金利が上がるとグロース株は弱くなる。 原油高は日本株に悪い。 円安は輸出株に有利になる。
こうした説明は、理屈としては正しい場合があります。しかし、実際の市場では、期間や水準、ほかのファクターとの組み合わせによって結果が変わります。
FactDecodeが目指しているのは、相場の定説をそのまま信じるのではなく、データを使って自分で検証できる環境です。
- 本当にその関係は存在するのか
- どの水準から影響が変わるのか
- どの程度の再現性があるのか
- ほかのファクターと組み合わせるとどうなるのか
こうした問いを一つずつ分解し、分析結果を判断材料として確認できるようにします。
FactDecodeは近日リリースを予定しています
FactDecodeは、近日正式リリースを予定しています。
現在、正式リリースに先立ち、先行ユーザーを募集しています。サービスのコンセプトや搭載予定の分析機能については、以下のページで紹介しています。
まとめ
今回の検証では、CPIが上昇するほどS&P500のリターンが一直線に悪化するわけではありませんでした。
中程度のCPI上昇局面では、比較的高い平均リターンが確認されています。一方で、CPI変化率が最も高いQ10では、S&P500の平均60日先リターンが-1.97%まで低下しました。
フィルターを設定しない場合の平均リターンが+3.22%だったことを考えると、極端に高いCPIが株価の重石となっていたことが分かります。
ただし、これはCPIという一つのファクターを見た結果にすぎません。
実際の市場では、金利、原油、景気、企業利益、バリュエーションなど、複数のファクターが同時に作用しています。一つの数字だけで結論を出すのではなく、それぞれのファクターが現在どの水準にあり、どのように組み合わさっているのかを確認する。それが、相場をデータで読み解くうえで重要だと考えています。
免責事項
本記事で紹介している分析結果は、過去のデータに基づく検証結果です。将来の相場展開や投資成果を保証するものではなく、特定の金融商品の売買を推奨するものでもありません。過去の傾向は、市場環境や制度、参加者構成などの変化によって将来機能しなくなる可能性があります。
最終的な投資判断は、ご自身の責任において行ってください。