日本の金利上昇は株価にどう影響する?――EWJをデータで検証
Published on 8月 17, 2026
「金利上昇は株価に逆風」とよく言われます。 ところが、EWJの60日先リターンを複数のファクターで分析すると、日本の長期金利はモデル内で高い寄与度を示しました。一方、その関係は「金利上昇=株高・株安」と単純に説明できるものではありませんでした。
金利が上がると、日本株はどうなるのか
日本の金利が動き始めています。
投資の世界では、「金利が上がれば銀行株には追い風」「グロース株や不動産には逆風」といった説明をよく見かけます。理屈として考えれば分かりやすい話です。
ただ、こうした説明を見ると一つ気になることがあります。
実際のデータでは、どの程度その関係が確認できるのでしょうか。
株価は金利だけで決まるわけではありません。為替、海外株式、原油、景気、企業業績など、多くの要因が同時に動いています。
そこで今回は、日本の長期金利を含む複数のファクターを使い、日本株の60日先パフォーマンスとの関係を分析しました。
今回はEWJの60日先リターンを分析した
今回の分析対象には、iShares MSCI Japan ETF(EWJ)を使用しています。
EWJは、日本企業で構成されるMSCI Japan Indexへの連動を目指す米国上場のETFです。米ドルで取引されるため、TOPIXのような円建ての日本株指数とは少し意味が異なります。
つまり今回見ているのは、純粋な円建て日本株指数ではなく、海外投資家が米ドルベースで日本株に投資する場合に近い値動きです。日本株そのものの値動きに加えて、円とドルの為替変動も影響します。
今回はEWJの60日後リターンを分析対象とし、日本の長期金利、為替、海外株式、原油、各種マクロデータなど、複数のファクターを同時にモデルへ入れて分析しました。
なお、利用できるファクターの期間に制約があるため、今回の最終的な分析期間はおおむね2015年以降となっています。この点については後ほど改めて触れます。
日本の長期金利「12か月差」が寄与度2位になった
分析結果を見て、まず目に留まったのが日本の長期金利でした。
日本の長期金利の12か月差は、今回モデルに投入したファクター群の中で寄与度2位となりました。3か月差についても、モデル内では比較的上位に入っています。
ここでいう寄与度は、「日本株を動かす要因として金利が2番目に重要」という意味ではありません。今回選択したファクター群を使ってモデルを作ったときに、そのモデルの判断にどのファクターが相対的に大きく関わっていたかをSHAPを使って確認したものです。
したがって、寄与度が高いからといって、「金利が上昇すれば株価も上昇する」といった方向まで分かるわけではありません。
それでも、今回選んだ複数のファクターの中で、日本の長期金利の変化がモデル上かなり大きな情報を持っていたことは興味深い結果でした。
「金利」をどうファクター化するかで結果は変わる
もう一つ重要なのが、単に「金利」という一つの数字を分析しているわけではないことです。
現在の金利水準を見るのか、直近3か月でどれだけ変化したかを見るのか、12か月でどれだけ変化したかを見るのか。同じ日本の長期金利でも、それぞれ違うファクターになります。
今回の分析でも、12か月差と3か月差では結果の見え方が違いました。
「日本の金利は株価に効くか?」という問いだけでは、少し粗すぎる。
どの金利を使うのか。そして、その水準を見るのか、変化を見るのか。変化を見るなら、どの期間を見るのか。そこまで定義して初めて、データとして検証できます。
12か月差では、金利上昇局面の60日後リターンが高かった
ここから、日本の長期金利の12か月差をもう少し詳しく見てみます。
金利の12か月差を低い方から高い方まで10グループに分け、それぞれについて、その後60日のEWJの平均リターンを確認しました。

今回のサンプルでは、12か月で金利が大きく上昇している側で、その後60日のパフォーマンスが比較的高くなる傾向が見られました。
「金利上昇は株価に逆風」というイメージだけで考えると、少し意外な結果です。
しかし、このグラフから、
「日本の金利が上昇すると日本株が上がる」
と結論づけることはできません。
たとえば景気やインフレが強い局面では、金利が上昇すると同時に企業利益や株価も上昇していた可能性があります。為替や海外株式など、別のファクターが同時に動いていた可能性もあります。
金利上昇とその後のリターンに関係が見られたことと、金利上昇が株高を引き起こしたことは別の話です。
3か月差では、単純な関係は見えなかった
さらに興味深いのが、短期の金利変化です。
日本の長期金利の3か月差もモデル内では比較的大きな寄与を示しました。しかし、10分位に分けて確認すると、金利上昇幅が大きいほど60日後リターンも高くなる、というきれいな関係にはなっていません。
低い分位でも比較的高いリターンが見られる一方、中間から高い分位では弱い結果もあり、最上位では再びプラスになるなど、単調な動きではありませんでした。
これは重要な結果だと思っています。
モデル内で重要だったことと、その値が高いほど株価にプラスになることは同じではありません。
同じ日本の長期金利でも、12か月差と3か月差では見え方が違います。
今回は12か月差の方が記事として分かりやすいため図を掲載していますが、3か月差まで確認すると、「金利上昇=株高」という単純な結論にはできないことがより明確になります。
寄与度が高いことと、「金利上昇で株高」は別の話
投資データを分析するとき、この違いは特に重要です。
あるファクターの寄与度が高かったとしても、それだけで「このファクターが上がれば株価も上がる」とは言えません。また、ある条件でその後のリターンが高かったとしても、それだけで因果関係が確認されたことにはなりません。
今回の分析でも、寄与度だけを見るのではなく、将来リターンとの相関や10分位ごとの結果、SHAP値との関係など、複数の角度から同じファクターを確認しています。
特にSHAPは、モデルが各ファクターをどのように使っていたのかを見るうえで役立ちます。ただしSHAPの値そのものも、「原因」を証明するものではありません。
重要度、方向性、相関、因果関係は、それぞれ分けて考える必要があります。
株価は一つのファクターだけで動いているわけではない
今回の分析で改めて感じたのは、一つのファクターだけで市場を説明しようとすることの難しさです。
日本株を見る場合でも、国内金利だけが動いているわけではありません。同じ時期にドル円も動き、米国株も動き、原油価格も変化しています。景気やインフレ、企業業績なども同時に変化します。
そのため、
「金利が上がった。だから株が上がった」
という説明は分かりやすいものの、本当に金利だけが理由なのかは分かりません。
むしろ分析で確認したいのは、複数のファクターが同時に存在する市場環境の中で、それぞれがどの程度の情報を持っていたのかということです。
今回、日本の長期金利12か月差が寄与度2位だったことも、その文脈で捉える必要があります。
「金利だけを見ればいい」という結果ではありません。
今回選んだ複数のファクターの中では、金利変化も無視できない情報を持っていた。
現時点では、そのくらいの解釈が適切だと考えています。
日本の金利上昇局面は、まだ十分に多くない
もう一つ、この分析には大きな制約があります。
今回のモデルでは、利用できるファクターの期間に合わせると、分析対象となるデータはおおむね2015年以降に限られます。FactDecodeでは、データが存在しない過去の期間を人工的に埋めるのではなく、実際に利用可能な期間を使ってモデルを構築しています。
そして日本では、長期間にわたって低金利環境が続いてきました。
現在のように金利そのものが大きく動く環境について、十分な数の過去サンプルがあるとは言いにくい状況です。
ここはクオンツ分析の難しいところです。
過去データで関係が弱かったことと、その関係が存在しないことは同じではありません。
逆に、今回のデータで関係が見えたからといって、今後の金利上昇局面でも同じ結果が繰り返されるとは限りません。
日本の金利環境そのものが変わり始めているのであれば、過去のデータだけで答えを固定するのではなく、これから蓄積されるデータも継続して確認する必要があります。
仮説は持つ。でも、検証するまでは仮説として扱う
「金利が上がれば銀行株には追い風になるのではないか」
「金利上昇ならグロース株には逆風ではないか」
こうした仮説を持つこと自体には意味があります。
問題は、理屈として説明できることと、実際のデータで確認できていることを同じものとして扱うことです。
投資判断に使うのであれば、その条件では過去のリターンにどの程度の差があったのか、他のファクターと組み合わせたときにも情報を持っていたのか、値の水準によって結果がどう変わったのか。少なくとも、そのくらいは確認しておきたいと考えています。
仮説を立てることは、分析のスタートです。
仮説を持つ。
ただし、検証してデータで武装できるまでは、仮説として扱う。
今回の日本金利の分析は、その必要性がよく表れた例だと思います。
まとめ|金利だけでは、日本株は説明できない
今回、EWJの60日先リターンを複数のファクターで分析したところ、日本の長期金利12か月差は、今回投入したファクター群の中で寄与度2位となりました。
12か月差では金利上昇側でその後のリターンが比較的高い傾向が見られた一方、3か月差では同じような単純な関係は確認できませんでした。
ここから言えるのは、「金利上昇=株高」でも「金利上昇=株安」でもありません。
金利をどの期間で測るかによっても結果は変わります。そして実際の市場では、為替、海外株式、原油、景気など複数のファクターが同時に動いています。
一つの要因だけで市場を説明するより、複数のファクターを組み合わせて、その中で何がどの程度情報を持っていたのかを確認する。
そして、答えが単純でなければ無理に単純な答えを作らない。
それが、データを投資判断に使ううえで重要だと考えています。
今回のように、選択した資産に対して複数のファクターを組み合わせ、Factor Contribution、相関、分位別リターンなどを確認できる分析環境として開発しているのが FactDecode です。